おそらく1947年~1954年ころに製造されたケリーバッグです。
1956年からケリーバッグと呼ばれるようになりましたので、
「サック・ア・クロア」と呼ばれていたころの品かもしれません。
持ち手など各部に損傷が激しく大きなシミ汚れもあり、
新品のように復活することはない状態です。
しかし、全体を解体してパーツごとに加工を施しながら組み立て直すことで、
ヴィンテージバッグとして使用に耐えうる形に復活できるのではと・・・・
持ち手は糸が擦り切れてホツレ、革が変色し、亀裂や欠損など重症です。
持ち手を裏側から見ると中央部はバラバラに解体したような状態です。
裏面のリザード革も切れや欠損があり手垢汚れやシミなどで、
持ち手としての復活どころか縫い直すことも不可能な状態です。
後面全体に色褪せや変色や汚れがあるのですが、
それらが気にならないほど大きなシミ汚れが目立ちます。
ホツレや破れや革の欠損などフルコースで損傷があり、
直営店も含め修理不可能と判断されるのが通常です。
ご家族も廃棄される判断をされたようですが、
祖母様の遺品とのことで、引き継がれるようです。
綺麗に見える前面もカブセを開くと全体的な変色やシミ汚れが鮮明です。
赤い染料の汚れが革に染み込んで擦れや汚れやシミも全体に見られます。
ヴィンテージバッグと呼べる品だけに素材も作り込みも高品質なバッグですが、
内側の状態からも使い方は少し乱暴だった印象が各部に見られます。
各部に見られる赤い汚れはなんでしょう?
古すぎる汚れのためか取り除くことができません。
持ち手だけでなく負担が掛かる付け根革も取り外して解体します。
祖母様から受け継がれる品ですので出来る限りパーツ交換はしたくありませんねぇ~
内張りの天部付近は表皮が擦れて剥がれ手垢汚れが染み込んで薄茶色に。。。
カブセを解体したところです。
芯材には本革が使用された贅沢な仕様です。
カブセの付け根や折り曲げ部や付け根革の縫い付け部などに、
強化加工を施して組み立て直します。
中央部のヒネリ金具はユルユル状態で少しグラグラしています。
ヒネリ金具を再生してグラツキを改善させます。
カブセの内側に入れ込まれた鉄芯と付け根革はカシメ金具で連結され、
縫製糸がホツレても外れない構造です。
外面からは見えない作り込みで修理には手間が掛かりますが安心な構造です。
両側のベルトには、こげ茶色の革と黒い布テープが芯材に使用されています。
外面だけでなく芯材もボロボロで限界を超えていますので強化芯材に交換します。
付け根革を取り外した部分を見ると変色や汚れが鮮明です。
この部分も裏側から強化します。
内張りを剥がした正面と底板を取り外した底面を裏側から見たところです。
本革で芯材を手作りして加工していたことがわかる作り込みです。
このバッグを作成していた当時の職人さんは数十年後に解体修理されることを、
想像できたでしょうか?
内張りや底板を解体した理由は底面のホツレを縫い直すためです。
外面は全体にホツレが見られますが、底面のホツレは大きく解体が必要です。
糸が劣化していますので外面は全体的に縫い直す必要があります。
しかし、元の糸を一目一目取り除かなければ縫製できません。
こびり付いた汚れや、染み込んだ赤い染料などを取り除いて、
内張りのクリーニングと補修補色加工の完了です。
内張りはご愛用いただける状態に復活しましたので、
各部に強化加工を施しながら組み立て直します。
使用不可能なほど重症だった汚れや変色や大きなシミも目立たなくなりました。
両サイドのベルトだけでなく負担が掛かるマチの天部やカブセも強化され、
底マチなどの強化も含めて加工した部分は新品時より丈夫です。
部材が剥がれてミルフィーユ状態だったコバ面も仕上げ直しています。
底マチやカブセ付け根やマチ天部なども強化芯材を入れ込みましたが、
元々、強化加工は施されていない部分ですので取り外したパーツはありません。
縫い付け部だけでなく、付け根革自体も弱った部分を取り除き、
強化加工を施しています。
負担が掛かる15か所以上の部分に強化加工を施しながら、
内張りも外面も汚れやシミなどを出来る限り改善させています。
しかし、数十年前の品であり、一度は廃棄を検討されるほど傷んだ品ですので、
労わるように活用されることが賢明です。
高品質な素材で丁寧に作成された品で、
二度と新品購入できないヴィンテージ品ですので、
出来る限り良い状態を保ちながら大切に長くご愛用ください。
by レザークリエーション http://www.brand-repair.com 「大切なブランドバッグ」で検索
(お手紙紹介です)
レザークリエーション様
長期の出張から帰りまして修理していただいた5点確かに受け取りました。
各品私が思っていた以上に奇麗に仕上がってびっくりしております。
特にケリーバッグは廃棄しようと思っていたものです。
あのカバンは阪神大震災の際、祖母の家が崩れて何週間か雨風にさらされた物です。
それがこれほどきれいになっており予想をはるかに超える仕上がりにびっくりいたしております。
ブログを拝見いたしまして、修理にこれほど鞄と使い手のことを考えて頂き
お修理をされてるのかと感動いたしました。
母と約束した通り、母の誕生日の品としてこのカバンを送りました、
祖母の思いも詰まった鞄ですので母も喜んでいました。
これからもお修理いただいた品に何かありましたらお世話になると思いますが、
またどうぞお付き合いよろしくお願いします。
兵庫県 R 様
お受け取りのご連絡ありがとうございます。
大切に使用していても汚れや擦れは避けられない損傷です。
とくにリザードのケリーはとても古い品で、
一度は使用できない状態まで悪化したバッグですので、
丁寧に取り扱いながら良い状態を保てるようにご愛用ください。